狩猟とは (第十一話)

視界をかすめた影

主尾根先に張り出す枝尾根ピーク ヤツは左右に行き先を変える 前回猪は右手を巻いて 其処に登り
付いた勢子の発砲を受けたが 無傷で主尾根を超え裏山へと其の姿を消していた。
この日 もうすっかり待ちの配置は済まして居たが 自分はどちらに立った物か はたと迷ってしまう
あげく先回と同じく 主尾根を左手に回り込む先の裏手 栗の古い倒木が横たわる枝尾根の低みにと
身を寄せた。
勢子は 件の尾根を攻め降り 先端で傾斜が
きつくなり 手のひら状にと分かれ広がる位置
きっと猪が潜むに違いないその場所を 一気に
攻め起こす様 勢子に注文をつけマイクを放す
山々は静まり返った。

吹き上げる風が モノの香りを運ぶのか 
五頭の紀州犬は 既にいきり立ち 尾根先の
一点を凝視しているはず 間を置かず放犬の
一報 バラバラに尾根先にと向かう犬群は
マーカーの 発信音を残し あっと云う間に
山裾に駆け下り 多くの鹿を起こし 幾つか
其の後へ付いた様だ・・・・・・

別ルートで上げていた待ちより 数発の発砲音
鹿はどうやら止まった様だが 現状維持を告げ
犬の動向を計る。
先犬は 案の定寝屋へ一直線 一頭の猪に絡みだしたのをイヤホーン越しに伝える あちら此方にと
散っていた他の犬も ぞくぞくと現場にと集まり出した様だ ”よし こいつは犬が押える” 勢子は
更に 下へ向け降り 此処からは真裏になる事で 無線の状況報告も 聞こえ無く成りだす 遠くで
鳴り響く発砲音ひとつ どうやらひとつの猪は止まったようだ・・・・。
各持ち場に 終了の合図を送るタイミングを
計り出した頃 私の周囲で 我々とは別の
蠢く生き物の息遣いが 表現しづらい 私の
感性を逆撫でした? 
コール仕掛けた 無線のマイクを離し 左手奥
例の尾根方向に 目線だけを向ける
サッ!”と走る 真っ黒な影は 視界の片隅
細めの雑木が数本固まる 裏へと入り其処で
同化した スローモーション映像のようにゆっくり
銃身を 其方へ向け 狙いを定めるが 鼻先が
僅かに見え隠れするだけ  ジリジリとしながら
そのままの体制で ヤツが動くのを待つ・・・
こんな時間の経過は 中々しんどい物で根負け
しては 不利な条件での勝負となり失敗し易い
風は前面から背後へと抜け ヤツはまだ私に
気付いて居ない 裏山向けての逃走ルートを
取り歩を進めれば 手が届かんばかりの処を
横切る筈で  動けない!
ヤツは後方を振り返って居る様で 次の瞬間ついに動き出し全容を現した 10bばかり横駈けし
此方に背を向け 足下を切れ込む谷を降り掛けた 立ち木と立ち木の間 僅かに三角形に見通せる
空間に出た その一瞬のチャンスを見逃さず 第一弾発射 手応え有り! ヤツは其処で右に向け
方向を変えた 第二弾発射 猪の影を追い放った弾は 手前の立ち木に盗られる 僅か1,2秒の
出来事 視界からヤツは消えた 6,70b先の矢場確認に入る 敷き詰められた落ち葉の上には
痕跡が点々と! 待ち場全員に注意を呼び掛けると この谷入り口辺りに配置したM氏による発砲
三発! 無線で何やら叫んでいるが 興奮窮まり 何を言っているのか聞き取れない?
おいMさん 猪だろう。” 私の何度かの問い掛けに やっと落ち着きを取り戻し 断片的に伝えて
来る 私の第一弾 308 150グレーンを背後から受け フラフラとなりヤツはM氏の前に姿を現し
発砲を受けた それが幾ら撃っても動きが止まらず 経験の無いM氏は もうパニック状態と成って
居る様だ? 近場の者を向かわせ 待ちを上げ合流しながら現場へと向う 僅かばかりの喧騒の後
山々の 静けさは戻った。

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